噛みごたえある食感や、ジュワッと濃厚な梅干しの味わいを楽しめる「男梅グミ」。
数ある男梅ブランドの中でも人気を誇る商品です。
しかし、人気に火がつくまでには、想像を超えるたくさんの苦難がありました。
開発当初から男梅ブランドを手掛けた杉本さんに、「男梅グミ」の開発秘話や今後の展望を聞きました。
杉本政彦
ノーベル製菓株式会社 取締役 開発部長
2000年龍谷大学経営学部卒業後、教育関係の企業へ就職。その後2001年にノーベル製菓開発部商品企画課に入社。入社後は主に商品企画に従事し、2010年より開発部全体の管理者となる。ノーベル製菓開発統括として、2024年1月より取締役となり、現在に至る。
好きなノーベル製菓の商品:ペタグーシリーズ
世界でも類を見ない薄さと食感を開発できた思い入れが強いため。
男梅ブランド戦略の一環として、グミ開発に期待
——「男梅グミ」を作ろうとした経緯を教えてください。
2007年に発売した「男梅キャンデー」が大ヒットし、「男梅」を今後どのように広げていくか、当社内でシリーズ展開を模索しました。男梅は「唯一無二の圧倒的梅干し味」をコンセプトにしているため、別のフレーバーで展開すると、その軸がブレてしまう懸念があります。男梅のブランド戦略は、「唯一無二の圧倒的梅干し味」をタブレットや素材菓子などの別の商品カテゴリーに展開していくことが最善の策だと考えました。
グミは当社の主力商品ですので、「男梅グミ」の構想は早々に候補に上がりました。梅干し味のような塩味系のグミは当時無く、新たなジャンルを確立できる期待感もありました。しかし、実際に商品化した順番は、スティックタイプののど飴、タブレット、干し梅を経て4つ目となりました。「男梅グミ」が完成するまでには、さまざまな段階で多くの課題があったのです。
品質とこだわりを追求し、300回以上の試作を重ねる
——「男梅グミ」の開発は、どのような所が難しかったのでしょうか。
大きな課題の一つが品質面です。グミの主成分であるゼラチンは、塩を加えると溶けてベタベタし、品質が保てなくなる性質があります。賞味期限の品質を担保した上で硬さ、大きさ、厚み、形など、あらゆる数値を試行錯誤して、最上の食感を目指しました。
また、「男梅グミ」はその唯一無二の梅干し感を実現するべく、秘伝の男梅パウダーをコーティングする設計だったので、さらに難易度が上がりました。噛むほどに染み出すような味わいにするため、グミが口の中からなくなる時点までは塩辛さが残るように緻密に計算し、粒の荒さやパウダー量のかけ率を変えて何パターンも試しました。
開発段階をクリアしても、工場での量産も難関でした。硬さに個体差が出ないように、すべてのグミを均一に乾燥させる技術、温度管理、日数など、職人技の調整が必要でした。
完成に至るまで5年近く、300回以上は試作を繰り返したでしょうか。ここまで長い期間をかけて開発することは、当社では珍しいケースでした。
マイナスな状況を、チャンスに変換して
——「男梅グミ」の開発で、印象に残っていることは何でしょうか。
実は社内での評価があまり高くなく、否定的な意見も多かったことです。先ほどもお話ししたように、塩味系のグミは世の中にあまり例が無く、甘いフルーツ味やソーダ味が一般的で、「しょっぱいグミ」の存在自体が受け入れがたいという状況も逆境でした。
しかし、全員が賛同する商品というのは、味の想像ができる無難なものになりがちです。私は、マイナスな状況こそ今までにない商品を出すチャンスだと考えました。当時の社長も「世の中にないものは発売してみたらいい」と声をかけてくれたことも後押しとなり、数年間開発に取り組んできたスタッフ達の想いをのせて、ついに2011年に「男梅グミ」を発売することになりました。
完成度の高さを地道に実証して、人気商品に
——発売後の売れ行きは、どうだったのでしょうか。
ペタグーもソルベットも、当社のグミ商品は発売するとすぐに人気に火がつくことが多いですが、「男梅グミ」は低空飛行でした。その状況が好転したのは、コンビニに採用されるようになった約2年後のことでした。
振り返ると必要な期間だったのだと思います。その間に地道に行っていたのが、夏期の販売でした。グミは気温が高いと溶けやすいので、夏場をどう乗り切るか試行錯誤が続き、クール便で配送するなど徹底し、塩分を欲する夏にこそ「男梅グミ」を届けようと改良を重ねました。また、他メーカーからも塩気を感じられるグミは販売されましたが、「男梅グミ」が実現している塩味の完成度の高さがバイヤーに認知されていくようになりました。
年間を通して安定した品質で届けられる事実や、唯一無二の味の存在感が認知されてきた状況を見て、当社の営業も積極的に「男梅グミ」を押していこうと動きをシフトしていきました。コンビニを起点に多くの方に商品を手に取っていただけるようになり、ヒット商品の仲間入りを果たしました。
——開発時の苦労からお聞きしていると、感慨深い瞬間ですね。
営業判断のタイミングも良かったのだと思います。グミの市場も大きくなっていて、お店の商品棚にグミのアイテムが増えてくると、フルーツ味が並ぶ中に少し異なる「梅味も入れておこう」と並ばれやすくなり、定着することができました。食べるとクセになるやめられない味だとお客様の間でも広まって、指名買いされることが増えました。気づけば、女子高生の持ち物ランキングの上位に入り、男梅シリーズでも一番の売上を誇る商品になりました。
発売から10年以上経ちましたが、「男梅グミ」の品質を守り、届け続けるのは、実は開発と同じくらい難しく、現在も日々奮闘しています。梅は天然物なので、年によって味や大きさが変わります。その都度レシピや工場での乾燥日数などを調整して、味や食感が変わらないように気をつけています。
気温の上昇や物流コストの高騰を受け、クール便の運賃が利益と変わらない年があり、夏場の販売を中止した方が良いのではという意見が社内から出たこともありました。しかし、私の中には止める選択肢はありませんでした。「男梅グミ」を楽しみにしてくれている方に届け続けたい。開発、製造、営業のスタッフと相談し、通年販売を継続しました。開発時から変わらない信念で、一つひとつの課題をこれからも乗り越えていきたいと思っています。
男梅ブランドをもっと多くの方へ
——「男梅グミ」の今後の展望を教えてください。
海外の方にも知ってもらいたいですね。グミは海外でも人気で、梅干しは“日本の味”なので、日本に訪れる外国人観光客の方に、手に取っていただきやすいのではないかと思います。唯一無二の男梅ブランドが、ノーベル製菓初の世界的なブランドになったらという野望はあります。
また、サッポロビール様と「男梅サワー」を、大森屋様と「男梅ふりかけ」を生み出したように、男梅ブランドのコラボ商品も出していきたいです。男梅は「唯一無二の圧倒的梅干し味」をコンセプトにしていますが、すべてが同じ味というわけではないんですよね。当社内でのキャンデー、グミ、干し梅も、それぞれ味を変えていて、主要ターゲット層も別々です。「このカテゴリーで、唯一無二の圧倒的梅干し味を実現するには?」という考え方なので、商品展開の可能性は無限大です。スーパーに行った時に、どの陳列棚に行っても男梅コラボ商品が置いてある…という状況も、実現したい夢の一つです。幅広い世代のお客様に長く愛され、面白いことをするブランドだと認知してもらえたら嬉しいですね。
今後も、圧倒的な梅干し感を進化させ続け、たくさんのお客様にご愛用いただけるように試行錯誤していきたいと思います。男梅は修行がテーマなんです。キャラクターである「男梅蔵」も、今日もどこかで修行していますから。